武蔵中学校 (東京都練馬区) 学校探検
学園生活―本物主義と豊富な体験学習―

9万冊所蔵可能な図書館棟には、閲覧席が100席ある。中高全体の在籍人数が1000人程度であることを考えるとかなり贅沢。またこの中高図書館棟以外に、蔵書64万冊の大学の図書館も自由に使える。
―「総合講座」について教えてください。

高1時に設けられています。これは2000年の、いわゆる総合的な学習の導入と同時に設けたものではなく、それ以前から本校では行われていました。開講のきっかけは1993年に男子にも家庭科が必修になった際、「家庭科と言うのは結局『生きる力』を涵養する教科に他ならない」ということで、それならば座学よりも少人数で外に出る講座を設けたらどうなのだろう、という議論が起こりました。それがこの講座を設けるきっかけです。
 例えば、北海道に行き酪農体験をするとか、沖縄でサトウキビの収穫を手伝うとか、当時からそのような体験学習を取り入れていました。そして、「総合的な学習」がカリキュラムに加わったとき、「これはもともと我々がやっていたことじゃないか」と。ですから、非常にスムースに移行することが出来ました。

―なるほど、長い歴史があるのですね。今年度は何講座くらい開かれたのですか。

 25講座です。一講座あたり7〜8人の少人数制ですね。学年の初めに「内容」や「ねらい」などを説明するガイダンスがあり、そのガイダンスを基に履修登録するという形です。また、翌年の講座の開設準備の段階で生徒たちに「君たちの方でこういう講座を受けたい、というような希望はないかい?」と尋ねることもしています。

―週一回、定時に行うのですか?

講座によります。週一回、放課後を利用して行うような講座もありますし、夏休みなどに集中して行うものもあります。「八王子での水田実習」や「古文書を読む」「幼稚園で学ぶ」あるいは電子顕微鏡を使った講座ですが「見えないものを見る」など、ユニークな講座が多いですよ。

―先生方も大変な労力ですね。

 いや、大変だと思いますよ。普段の授業に加えて、ですから。フィールドワーク的な講座内容ですと下見ですとか現地の方々との打ち合わせなどもありますしね。

―「山川賞」「山本賞」について教えてください。

 第二代の校長先生の名前を冠しているのが「山川賞」でこれは理系の研究分野に、第三代の校長先生の名前を冠しているのが「山本賞」でこちらは文系の研究分野に贈られます。これは在学中に自分なりの研究を進め、「高校生レベルを抜いた」内容である場合、研究成果に対して賞を与えています。これは必ず外部の方々―主として大学の先生なのですが―に審査をお願いしています。いわばそういう専門の先生方のお墨付きの優秀な研究成果、といえると思います。数年前に、東京大学とプリンストン大学の両方に受かって結局プリンストンに進んだ生徒がいまして、その生徒の研究は化学の触媒に関するものだったのですがすべて英文で書かれていて、内容的にもその分野の専門家が舌を巻くようなものでした。

夏の山上学校での様子。座学だけではなく、体験学習や校外行事が多いのも武蔵の教育の特色。山上学校は中1の夏に赤城山大沼湖畔にある「赤城青山寮」で行われる。中2では千葉県勝浦市にある鵜原寮にて海浜学校が営まれる。
―この研究は強制ではなく、任意なのですか。

 はい、完全に任意です。出したい人は自分で研究して出しなさい、というスタンスですから。 
 ただし、研究に取り掛かる際に、「こういうものを研究したいのだけど」と、専門の先生に相談することを奨めています。というのも、助言なしで単独で研究や実験を行った場合、どうしても方法に不備があったりして手直しが必要になってしまうケースがあるんですね。それではもったいないですから。

―締め切りというのはあるのですか。

 あります。大体2月ごろでしょうか。

―正に大学の卒論とかゼミ論のイメージですね。

 そうかもしれません。今までの受賞者には現在の大学の教授や准教授などがずらりと並んでいて壮観です。


―大きな校内行事として「強歩大会」がありますね。この行事について教えてください。
 
 生徒主体の行事は三つありまして、一つが記念祭、これはいわゆる文化祭・学園祭ですね。それと体育祭、そしてこの強歩大会です。記念祭が4月、体育祭は秋、そしてこの強歩大会はここのところ2月の2週目くらいで定着しています。前年春の段階から強歩大会の委員長が決まっていまして、その委員長の下、委員が中心になってコースを決めます。

―コースも生徒が決めるのですか。どの辺りに行くのでしょう。

以前はよく飯能のあたりに行きました。最近は多摩や狭山湖の周辺、あるいは横浜や鎌倉まで行ったり。多岐にわたっていますね。

―距離はどのくらいですか。

25〜30kmくらいです。9時に出発して4時、5時ころ終了でしょうか。看板を立てたり、関門員の役を担ったり。そういった裏方さんの役目も含めてすべて生徒自身が行事を作ります。当日の出席を取るのも生徒です。

―そういった行事を通して実行力が養われていくのでしょうね。

ええ、そうだと思います。はやり他の生徒の協力を得ねば上手くいかないので、実行委員は大変だろうと思います。一緒に働く生徒も、自分たちの手で行事を作っていく、という気持ちを持ちますから、ただ漫然と歩くのでなく参加意識というものが自然に涵養されていきますね。

―記念祭は4月ですね。新中1は入学してまだひと月弱。戸惑いはありませんか。

全く無い、ということはないでしょう。ただ、入学してすぐの土曜日に、先輩の生徒が主体となって新中1を一ヶ所に集めまして「もうすぐ記念祭というのがある。君たちにはこうこうこういう仕事がある」と言って、引きずり込みます。

―否も応もなく。

ええ、そうです(笑)。

毎年4月末に行われる「記念祭」(学園祭)の一こま。秋の体育祭・冬の競歩大会と並び、代表委員が中心となり、企画運営を行っている。それらの行事を通して実行力や協調性が養われていく。
―体育祭は縦割りですか。

各学年、A〜Dクラスまでありますが、それを学年を貫いてA組は何色、B組は何色、と決めて色対抗で行います。色分けチームの中では上級生が下級生を指導します。全校で熱くなる行事です。

―最近、心のケア、メンタルヘルスについて学校現場でも整備が進んでいますが、御校はいかがですか。

これは大変手厚い、と自負しています。まず、スクールカウンセラーの方に、週二回来ていただいています。この方はカウンセラー養成講座の講師をしているほどのエキスパートです。そして、このカウンセラーの方とは別に校医として精神科医の方をお願いしています。本校のOBですが、梅が丘病院の院長を務められた経験もある、権威ある専門家です。必要とあればご両親とお会いするようにしていますが、スクールカウンセラーの先生が扱う事例よりももう少し程度が進んだケース、もう少し踏み込んだ精神的ケアが必要な場合はこの校医の先生の担当となります。
 またさらに、それらとは別に、「相談室」というものを設けているのですが、教員の中から「相談室委員」を任じまして、毎日昼休みにその相談室をオープンにして必ず誰かがそこにいるようにしています。そこでは食事をしながら雑談するわけですが、その雑談の中から「先生、実はちょっと相談が…」ということもあるんですね。もちろん、生徒にとって居心地のいい場所なので、ただ食事をし雑談をするだけで帰っていく生徒もいる。でもそれはそれでいいと思っています。
 以上のように、非常に手厚いですね。ここまでの体制を整えている学校は余り無いであろう、と思います。
 もちろん、カウンセラーや校医さんが必要とならないのがもっとも望ましいわけで、ですから予防的な見地から父母会などでカウンセラーの先生に講演をしてもらっています。また、生徒を対象にして、「グループの中での人と人とのコミュニケーションのとり方」というテーマで話をしてもらったりもしています。

―さて、武蔵と言うと規則がない学校ですね。服装も私服というか、自由服です。

 そうですね、一人前の大人として扱う、ということです。ただ、余りに乱れている場合は話をするようですね。髪の毛を派手に染めたりしている生徒もいたんですが、話を聞くと記念祭のためだったり、バンド活動をしているからだったり。それなりの事情があるようです。その事情を聞いてあげるのが我々教員の役目ではないでしょうか。

―ある意味、規則で縛った方が楽ではありませんか?

 楽、かも知れません。しかし、「規則、規則」とそれを振りかざさなくても、なぜそれをしてはいけないのか、を考えさせることを日々の教育活動の中で行っています。

―なるほど、やはり「自ら考える」につながっていくのですね。



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