受験生の合格は、そのまま家庭教師の大きな喜びでもあります。今年も多くの受験生が麻布個人指導会からそれぞれの志望校にゴールしました。
 受験生と一緒に喜び、悩み、叱咤と激励を繰り返しながらの道のりには、実は講師の多くの苦労と地味な様々な工夫が隠されているのです。一人ひとりの合格を力強くも温かく支えた専門家庭教師の中から代表して4人の先生たちに、今春の合格者たちの成長ぶりと成功の要因を振り返ってもらいました。


●専門家庭教師(五十音順)
 久保 浩生 富永 恭子 山ア 法子 横林 芳雄
●司会
 麻布個人指導会 教務課 課長 大木 毅

家庭教師の力が存分に発揮された数々の合格

短期で偏差値プラス20!
嬉しい驚きでした
山崎法子(やまざき のりこ)

温和な性格ながら「どんなタイプのお子さんでも、必ず国語を伸ばします」と自らの指導法に絶対の自信を持っている。「子供達に国語の勉強の楽しさを教えることが何よりの喜び」と語る、中学受験国語指導の専門家。指導が難しいといわれる国語での実績は抜群。

(最近の合格実績)
雙葉・早実・浦和明の星・学習院女子・東洋英和・光塩女子学院・大妻・共立女子・江戸川学園取手・東邦大東邦・市川・香蘭女学校・聖心女子学院・国府台女子学院など。

大木 まず最初に今年の成功例を振り返りたいと思います。横林先生は麻布と栄光に合格したD君、海城のS君、暁星と芝のO君、女子学院のNさん、攻玉社のM君などめざましい結果でしたね。この中でD君はちょうど昨年の今頃に依頼があったお子さんでしたが。
横林 成績に波があることをお母様は大変心配しておられました。最初の段階で基本をチェックしてみるとあやふやな部分があり、そのために成績が安定していませんでした。
大木 できるお子さんでも基本が抜けているケースは多いですね。
横林 かなり多いですね。ですから基本のあやしい部分を解消することを徹底し、徐々に応用に向かうようにしました。D君はノートを書かないことも問題点だったのです。だから「これはどうやって解く?」と必ず聞き、書かないまでも本人がまず言葉で説明できるようにし、それからノートを書く指導に持っていきました。最初は私のやり方を真似てもらうことから始めたら、六年の半ばくらいには要領を吸収して自分なりのスタイルができ、「これなら大丈夫」というレベルに到達できました。
大木 富永先生は女子学院に合格したKさんのほか、家庭教師だけで横浜雙葉に入ったTさんという素晴らしい成果がありました。
富永 Tさんは聖園と清泉にも合格しました。受験校をすべて自分で決めるようなしっかりしたお嬢さんで、塾で大勢でわいわい勉強するのに抵抗があったようです。苦手なのが算数の図形で、図形の切断や影がどう映るかなど想像力が湧かないようでした。それで本人の目の前で私が解きながら、図を書くスピードからつぶさに見せていけばだんだん伝わっていくかなと思い指導を進めたところ、着実に習得していきました。
大木 Tさんには文系の先生が一人、そして理系が富永先生ということで理科も指導していただきましたね。
富永 理科は知識が全然足りなかったので、四谷大塚の予習シリーズを使い「今週はここ」と印をつけて家庭学習の骨組みを作りました。内容がわからなかったら日能研ブックスのメモリーチェックを見るというように、やさしめのテキストを常にそばに置くことも指示したところ、Tさんは本当によく家庭学習をこなし、これには私も感心しました。
大木 山崎先生は、聖心に受かったKさんが印象的ですね。あっという間に国語の偏差値が20も上がり驚きました。
山崎 Kさんの偏差値は34〜35だったのですが、実は読書家でたくさん本を読んでいました。問題点はテスト問題でも普段の読書のように主観的な読み方をしてしまうことで、自分が気に入った登場人物の中に入り込んでしまうんですね。だからテストでは正解を出すために客観的な読みをする必要があること、そして主人公の気持ちを聞かれた場合、正答を出すために根拠を求めなければならないことを説明したら、1回目の指導でかなり理解してくれました。
大木 一ヵ月後には偏差値が50台になり、お母様も本当にびっくりしておられました。
山崎 文章自体は読めるのに、読み方を間違えている受験生は意外に多いですね。でも実はこうしたケースは少しトレーニングすれば改善できます。

力量に合わせて「やる気」を育てる、それがプロの技!

個性の全く違う二人を
開成合格に導きました
久保浩生(くぼ ひろき)

大手進学塾の算数・理科担当の専任講師を経て教室長を勤める。単に解法指導にとどまらず、学習計画の立案、教材の取捨選択、受験校決定のアドバイスなど、総合的な受験指導を的確に出来るベテラン講師として大変頼りにされている。毎年、男女御三家を含む難関・上位校に確実な実績を残している。

(最近の合格実績)
筑波大駒場・開成・ラサール・麻布・駒場東邦・桜蔭・女子学院・筑波大附属・渋谷幕張・武蔵・海城・桐朋・芝・暁星・本郷・学習院など。

大木 久保先生は、今年は何といっても二人の開成合格という快挙がありました。
久保 二人の状況はそれぞれで、U君はできるお子さんだけどミスが多い、B君は開成には少し距離のあるお子さんでした。U君に関してはミスについてうるさく言うより、真の実力をつけようということに主眼を置きました。「ここをできてほしい」というレベルの問題を選んでプリントを作り、どんどん解いてもらいました。その中にはかなりの難問も入れたのですが、彼はよくついてきて、解けた喜びを味わいながら受験勉強を進めることができました。理想的な形だったと思います。
大木 B君は2月1日の受験校選択について、お母様がだいぶ迷われたようですが。
久保 3日に受ける早稲田は私の指導経験から「受かる」と確信があったので、「1日は開成で行きましょう」と断言しました。彼に関してはとにかく開成で出そうな立体、図形、数の規則性に絞り込んで問題を用意し、徐々にレベルを上げていったのですが、「本当によくがんばった成果が出た合格」でした。
大木 家庭教師としては「やる気を出させる」ことも重要な課題だと思いますが。
横林 山脇に合格したHさんの場合は、やる気をいかに出させるかに終始しました。最初の授業で塾の勉強が全然身についてないことがわかり、宿題を出しても全くやってない。ほめたりしかったりしながら、受験への意識づけと基本を積むことに集中しました。初めはなかなか先に進めなかったのですが、「できたじゃない」とはげまし、階段を一段ずつ上るような気持ちで引っ張っていきました。
山崎 小さな成功体験を積み上げるって大事ですよね。私もやる気に欠けるお子さんには、なるべく最初はハードルを低くして「できたね!」というのを繰り返し、ハードルを少しずつ上げていくような接し方をしています。
久保 要は「がんばればできる」という部分をうまく導いて、今まではできなかったのに「ほら、解けた」という体験をもってもらうことですね。そのお子さんをよく見て、「がんばればできそうなちょっとハイレベルな問題」を家庭教師がうまく選別し「できた!」という感覚を味わう機会を意識して作る。それがやる気や自信につながるのだと思います。
富永 昨年担当した中に、現実べく最初はハードルを低くして「できたね!」というのを繰り返し、ハードルを少しずつ上げていくような接し方をしています。
久保 要は「がんばればできる」という部分をうまく導いて、今まではできなかったのに「ほら、解けた」という体験をもってもらうことですね。そのお子さんをよく見て、「がんばればできそうなちょっとハイレベルな問題」を家庭教師がうまく選別し「できた!」という感覚を味わう機会を意識して作る。それがやる気や自信につながるのだと思います。
富永 昨年担当した中に、現実の成績とかなり離れた学校を志望されているご家庭がありました。依頼された時期も遅く、すでに過去問に取り組んでいたのですが得点を見ると20点程度。お子さんも追い詰められた様子だったので、「合格点の60点に届くためにあと40点を取れそうな問題を選んで一緒に勉強しましょう」とスタートしました。「あと40点取るための勉強」を具体的に示したら、それまで漠然と先が遠いと途方に暮れていただけに、本人の心の持ちようがガラリと変わったんですね。表情も元気になり、やる気を刺激したことが合格の原動力になりました。

今、一番すべき勉強は何かを見極めよう

基本を網羅することが
合格への力になります
富永 恭子(とみなが きょうこ)

桜蔭中高出身という自身の経験を活かし、中学受験専門家庭教師として活躍中。担当生徒の学力を問わず成果の出せる、理系科目指導のエキスパート。

(最近の合格実績)
慶応中等部・慶応湘南藤沢・白百合・青山学院・鴎友学園・横浜雙葉・横浜共立・日本女子大附属・東洋英和・洗足学園・カリタス女子・普連土など。

大木 塾の勉強のフォローをしてほしいと要望されるご家庭も多いと思いますが、「合格のための勉強」と落差がある場合もあるのでは?
久保 かなりの生徒が塾で分からない勉強を質問してきます。もちろん解説しますが、その時私は必ず「もう一回自分で解きなさい」と指示します。また次回それにちなんだ問題を作っていって宿題にするなど、「質問に答えて終わり」ではなく、塾のフォローを家庭学習の流れにつなげる工夫をしています。
横林 難関校志望のために、難問ばかり聞いてくるお子さんがいます。ところが基本がガタガタなことも多く、私としては基本に重点を置きたいわけです。ご家庭の「わからないところを教えてほしいから家庭教師をつけた」という事情は理解できますが、「合格のために、今は基本をしっかりすることが最優先です」と提言することも少なくありません。
山崎 これは直前期の話ですが、解けなかった志望校の過去問をどうしても教えてほしいという依頼がありました。ある年度にその学校が間違えて出題したのでは?と思えるほど難しい長文があって、「これをできるようにならなければ」と思い込んでしまったのですね。「こういう問題はもう出ないでしょう」と説明し、もっと実際に役立つ勉強を進めましょうと説得したこともありました。
久保 注意したいのは、例えば塾の教材の一番難しいレベルを質問してきても、それがわからないことの全てではないということです。現実に初歩の教材でわからない部分があるのに、そこは聞いてこないことが多いですね。
横林 そうですね。私も質問があると「じゃあ、こっちはできるんだよね」と必ずチェックを入れています。
富永 私は担当するのは圧倒的に女の子が多いせいもありますが、いつも言っているのは「白地図を塗りつぶしていくように特に基本の部分はやり残しがないようにしましょう」と。塾で解いた問題は自分で月日を入れてもらい、私が指導したところは私が日付を記入し、もれのないように気を配っています。これから塾ではどんどん先を急いで勉強を進めていきますが、家庭教師としてそのお子さんにふさわしいペースメーカーになることが大事だと思っています。

早い時期に基礎を固め前向きにがんばろう!

「手を使う勉強」こそ
受験の大きな武器です
横林 芳雄(よこばやし よしお)

担当教科:算数・理科。大学卒業後、中学受験最大手塾の講師として12年間経験を積む。現在は麻布個人指導会専任講師。強い責任感と豊富な指導経験で培われた指導力で、確実に担当生徒の学力を伸ばす。担当生徒の第一志望合格率は当会講師の中でも屈指。二児をもつ、よき家庭人でもある。

(最近の合格実績)
筑波大駒場・開成・麻布・駒場東邦・桜蔭・女子学院・豊島岡女子・栄光学園・聖光学院・慶応中等部・慶応普通部・慶応湘南藤沢・早稲田・早実・海城・巣鴨・攻玉社・芝・浅野・サレジオなど。

大木 受験生が大きく伸びるためのコツは何かありますか。
富永 あります。教科の枠を越えて感じるのは「手を使って書く」ことの大切さです。例えば桜蔭の算数はものすごく手を使って用紙いっぱいに書くくらいでないと解けません。処理能力を問われるので、書かずにはすまされない部分が難関校にはありますから、書く力を十分に備えることが非常に大切です。
横林 一言でいうと整理能力です。文章に書かれていることを式にしたり図にしたりと、書き出していく力、文字にする力を鍛錬すればとっかかりをつかめるようになります。やはり「手を使う勉強」を実行してほしいですね。
久保 理科も同様です。例えば岩石の名前を覚えるとき、ちゃんとノートに書くということをしないで、眺めているだけでは記憶できません。
山崎 書くことによって一度体の中を通していくことが、習得の早道になることは確かです。
大木 最後にこれから受験を迎えるご家庭と受験生にメッセージをお願いします。
横林 どの学校を受けるにしても土台となる基本の部分は全員共通です。そこをないがしろにしないことと、理解だけで終わらせずに、ちゃんと自分で解き直すことを習慣づけてください。それからご家庭では良かった時のほめ言葉をちゃんと口に出してお子さんに伝えてあげてください。それでやる気が何倍も違ってきます。
富永 「勉強は楽しい」という大前提を忘れてほしくないですね。私自身「この子に楽しく勉強させられているだろうか」と常に自問しながら指導していますが、受験勉強をつらいものにしないためには、「わかった!」「もっとやりたい」をたくさん増やすことです。そのために私も力を尽くしたいと思っています。
山崎 いかにこの一年間を楽しく過ごせるかは本当に大事だと思います。ご家庭で適度に息抜きを作り、精神的に追い詰められないような環境を整えていただきたいと思います。国語に関しては、漢字や語句など基礎学力にあたる部分について、余裕がある今の時期にしっかり固めておいていただきたいですね。
久保 受験勉強では「毎日の地道な努力」がなにより大事です。成績というのはコツコツと積み上げていくものですから、家庭教師としては正直言って早い時期からしっかり見て土台作りからしたいところです。算数に関しては、説明を聞いて終わりではなく「自分で解く」ことを第一に「自分の手を使おう、自分の頭を使おう」を自覚、実行して元気でがんばってもらいたいと思っています。