武蔵中学校 (東京都練馬区) 学校探検
武蔵らしさとは―教養主義・リベラルアーツ―

「本物教育」と「自調自考」をキーワードに、根強いファンを持つ武蔵中学校高等学校。「自主的な活動には失敗や無駄がつき物だが、自分でよく考え、自分の責任で行動した結果の無駄や失敗は、大切な本人の財産になる」という考えが貫かれている。
―武蔵中高は旧制の尋常科四年、高等科三年を持つ、いわゆる七年制高等学校を源流とされていますね。御校を語るときのキーワードとしては「教養主義」「リベラルアーツ」などがあります。

はい、私立では学習院・成城・成蹊・甲南、官立では東京高等学校(東京大学教養学部の前身)などが旧制の七年制高等学校ですね。1948年の学制改革のときに、他校が大学に変わったのに対して本校だけが新制高校に変わりました。そして翌年に中学校と武蔵大学がスタートしました。したがって、旧高等学校を引き継いだのは大学ではなく武蔵高校なんですね。七年制高等学校の雰囲気、旧制高等学校の風土を色濃く残している、と評されるのはその辺りに由来するのだろうと思います。
旧制高等学校から新制高等学校に変わるとき、旧制高等学校で教鞭をとっていた教授の方々が多数、そのまま武蔵高校で教官になりました。そういう武蔵高校に残られた先生たちがアカデミズムを形成しました。そのアカデミズムが「教養主義」「リベラルアーツ」につながっていくのだろうと思います。

―「根津育英会」によって運営されていますが、この根津育英会はもともと日本の将来を担う若者たちの育成を目的に設立されたそうですね。

根津育英会の創立者は、東武鉄道の社長を務めた根津嘉一郎という人物ですが、鉄道事業以外にビールや保険、製粉など、実にさまざまな事業を行いました。そして財を成したわけですが、「社会で得たお金は社会に還元すべきだ」という強い信念を持っていまして「国の将来は教育に淵源する」と、いろいろなところで述べています。そしてその考えの下、1922年(大正11年)に根津育英会を設立しました。

―御校のOBの顔ぶれを見ると、政財界や学問の世界の第一線で活躍されている、まさに錚々たる顔ぶれです。

そうですね、本校のOBには医師と研究者が多いですが、それは本校のアカデミズムが大きく影響しているのだろう、と思います。思春期の多感な時期に学問の面白さに目覚めてそして研究者になった、というケースは多いですね。また、政財界や学問の世界では東京証券取引所の取締役会長の西室泰三さん、物理学者で東大総長、文部大臣、科学技術庁長官などを歴任した有馬朗人先生、また比較的最近では評論家で「反貧困」をテーマに積極的に発言をしている湯浅誠さんなどが本校OBです。

大学とはキャンパスを共用しているが、マンモス大学ではないので、手狭な感じはない。むしろ、大学の講座を受講できたり図書館が使えたり、とプラスの面が多いようだ。写真は大学の講堂。
―教養主義に代表される旧制高等学校の空気というのは、今でも御校の中に脈々と受け継がれていると思うのですが、先生からご覧になって具体的にどの辺りにそれを感じられますか。

建学の三思想というのがありまして、それは「東西文化融合のわが民族理想を遂行し得る人物」「世界に雄飛するにたえる人物」そして「自ら調べ自ら考える力ある人物」の三つですが、この三番目の「自ら調べ自ら考える」、これは日常生徒と接する中でもっとも重視しているものです。
 また実験が多いこと。そして「原典主義」。これらは旧制高校時代からのアカデミズムに源流を持つものでしょう。我々は「本物教育」と言っていますが、「本物に触れることの大切さ」、実験にしても観測にしてもそうやって実体験で得られた知識は頭だけで得たものと異なり、将来にわたって役立つものだと思っています。

―記述も多い。

 ええ、非常に多いです。中2・中3でかなりの量のレポートが課されます。中学高校でさんざん鍛えられているので、大学に入ってレポートを書くのが楽に感じる、と卒業生が言うくらいです。

―あるOBの方から伺ったのですが、その方がおっしゃるには「真の学究は競争からは生まれない。だから武蔵では競争が前面に出てこないんだ」と。

 そうですね。確かにガツガツと競争を煽る雰囲気はないですね。


生徒玄関から校舎に続く渡り廊下。キャンパス中央には川(すすぎ川)が流れ、春には桜、秋には紅葉に彩られる。また校舎内も、コンピュータ教室・トレーニングルーム・多目的教室・各教科研究室等を備え、充実した設備を誇る。
―武蔵大学と同じ敷地内にあるので、大学の図書館も自由に利用できると聞きました。

 はい、高校の図書館で7万6000冊の蔵書があります。これは高校レベルではトップクラスなのですが、それに加えて大学の図書館が64万冊。これを自由に使えます。
 また、図書館のみならず他の部門でも大学との連携を強めているのですが、その一例として大学が開講している留学準備講座というものがあるのですが、その講座を高校生も受講できる形を2008年からとりました。

―それは「世界に雄飛する」につながっていくのですね。

 ええ、三理想のうちの最初の二つは「世界に視野を向け、世界で活躍できる人物の育成」と言い換えることが出来ると思います。今の時代の方が、三理想が作られた当時より、一層そういう人材を求めている、ということはあるでしょうね。

―武蔵中高に合う生徒というと、調べ物や研究の好きな子というイメージがあります。

そういう生徒は本当に充実した6年間を送ることができるでしょうね。
 やはりどの生徒にも6年間のうちで「これだけは」というこだわりを見つけて欲しいと思っています。そしてそのようなこだわりを見つけることが出来た子には非常に幸福な6年間だと思います。

―反面、「武蔵という学校は、自ら学び自ら行動できる子にとってはすばらしい学校である。だが、ただ雛鳥のように口を開けて、親鳥が餌を運んでくれるのを待っているだけ、というような子が行くと6年間無駄になってしまうよ」という忠告も聞いたことがあります。このあたりはどうでしょう。

 それはある程度事実でしょうね。ただ、最近そういった受け身の生徒は増えています。ですから我々もより「手をかけてあげよう」という意識は強くなってきています。「突き放して終わり」というようなことはけっしてないですね。以前よりはずっと面倒見を心がけています。

―創立時の理想と、今の現代っ子気質と、そのギャップに現場の先生は日々悩まれている、ということでしょうか。

 ええ、ええ、まさに(笑)。

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