豊島岡女子学園中・高 (東京都豊島区) 学校探検
「運針」と心の教育

今回、応対してくださった小林先生。教頭先生の要職に加え、英語の先生として指導にあたられています。

―豊島岡女子と言えば「運針」ですね

 毎朝5分間、集中して行っています。いわば一つの「精神統一」の時間ですね。「運針」というものは、豊島岡の精神の現れなんです。一つは「集中すること」の大切さ。「集中力」というのは文字通り「力」だと思うんです。そして、毎日のたった5分の努力が、1年たつと手が自然に動くようになります。ひとつのことを毎日少しずつでも努力すること、そしてその努力を積み重ねていくこと。これはとても大切なことです。今の世の中、「努力することは恥ずかしいことだ」という風潮が見受けられますが、それは大間違いで、人は努力をしなければ何も為せない。それを是非、子供たちに伝えたいですね。

―「お裁縫がうちの子は全然だめなんですが」という心配の声、「『運針』についていけるのでしょうか」という相談の電話もあるそうですね

  春休み、入学試験が終わってから入学式までの間に必ず毎年何本もご相談の電話があります。まったく心配要りません(笑)。どんな不器用なお子さんでも大丈夫です。
 今入学なさる生徒はもちろんのこと、お母様もなじみが無いことかも知れません。ですので、そのご心配もごもっともなのですが、最初しばらくは上級生が指導に入ります。上級生もその指導をするのがとても楽しいようですね。すごくうれしそうに、委員の生徒が運針の道具を持って新入生の教室に入っていきます。1年もあればどの子もずいぶんスムーズに針が動くようになります。
中庭にあるテニスコートと3号館。校庭の狭さは都心の学校に共通する悩み。それでも、身体を動かす部活動は大人気だそうです。

―毎日、少しずつ何かを作っていくのでしょうか

 いえ、ただひたすら5分間、布の上で針を動かすだけです。終われば糸を抜いてしまいますから。抜いてまた最初からやります。黙想ってありますよね。あれと同じで、静寂の中、無心に針を動かす。そこに意味があるのです。昭和23年からやっているのですが、先代の園長は良いことを考え付いたな、と(笑)。一つのことに集中し、心が静かになることであれば何でも良かったんです。もちろん、将来、針を持つのが億劫にならない、とか、そういう意味での実用性はありますね。実用性といえばその程度ですが、何度も申し上げるように、実用が目的ではなく、集中して無心になること、これを生徒に是非体験させたかったのです。
 集中が必要なときに集中できる、ということは中学高校時代に養っておくべき大事な資質の一つです。運針によって、授業を集中して聞けるようになった、という副次的な効果もあります。
平成13年竣工の二木記念講堂は地下1F、地上4F建て。800席強の収容力を誇ります。地下にはトレーニング場、屋上にはプールを併設。

―心の教育、心のケアについてはどのように取り組んでらっしゃいますか

 ええ、心の教育についてはもちろん重要視しています。勉強だけできるようになればよいのでしたら、予備校でも良いわけですよね。でも学校教育というのはもっとトータルなものですから。当校は、勉強とクラブ活動、そして校内行事の三つの柱で多面的に成長できるように配慮していますし、ほとんどの子はそれで成長していけるわけです。ただ思春期の微妙な年頃ということもあり、中には、不登校気味になってしまったり、皆の中に入っていけないという生徒が出てくる可能性はあります。そのために、しっかりケアできる態勢をとっています。
 具体的には「学園生活指導部」というものを設けまして、近所の校医さんと養護教諭、そして担任、この三者がチームを組んでケアにあたるようにしています。校医さんは月に二回の頻度で来てもらっているのですが、この校医さんが来る日を相談日として、生徒も保護者も先生も、だれもが相談できるようにしています。もし何らかの、より専門的なケアが必要なケースが発生しましたら、校医さんを介して専門家を紹介していただくように整えています。
 スクールカウンセラーには、もちろん良い面もたくさんありますが、教育という側面から見るといろいろ難しい面もありまして、導入を検討したこともあったのですが、例えば「守秘義務」の壁があってカウンセラーが生徒から悩みを打ち明けられても、担任や学園側にそれを伝えることができないのですね。それではかえって困る、と。まずは担任を初めとする教員、そして養護教諭、そしてさらに前述の校医さん、とまずは内部できちんと受け止め、解決するべきであろう、と

―落第基準というのはありますか

 中学ではついていけないという子はいません。もちろん、成績の幅というのはありますが、こちらも心配な子を集めてフォローの補習をかなりしつこくしますから。
 中学生の場合、中3の2月に高校受験生と一緒に高校入試の当日に同じ試験を受けます。それが一つの目標になりますね。中には「先生、入試に落ちたらどうするんですか」と聞いてくる子がいます。そういう生徒には「とにかく落ちないように頑張れ」と。高校も、成績不振だけを理由として上げないということはありません。ただ、生活指導上かなり乱れていたり、またその乱れと成績不振がドッキングしたりしている場合は、引っかかってくることはありますね。
 中1に入ったときに学年主任が、まず頭を切り替えてもらうためにかなり新入生に言いますが、いつまでも受け身の勉強では困るよ、と。それまでは塾通いをして、塾の先生が「これをやりなさい」と言ったことを何も考えずやっていれば良かったわけですよね。しかもそれまで小学校での勉強は大変ではないので、中学校も同じようだと思っている子が多い。でも、それは大間違いなわけで、学校の勉強を中心に、少なくとも一日2時間は、予習復習をきちんと自学自習して欲しいのです。
 勉強をしようという気持ちと意思、それがあって初めて皆についていけるものだと思うのです。なにもやらなければ当然、ついていけません。
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