鴎友学園女子中学校 (東京都世田谷区) 学校探検
園芸とリトミックが象徴する鴎友精神

園芸の時間の様子。「自分が心をこめて育てた命が大きくなっていく、それを生徒に実感としてつかませたい」という狙い。
―園芸が必修。これは珍しいですね。

はい、校舎の裏に畑があるのですが、やはり自分が心をこめて育てた命が大きくなっていく、それを生徒に実感としてつかませたいと考えて取り組んでいます。中学1年生では週2時間、そして高1で1時間園芸の時間を必修として設けています。高2・3では選択科目として選べるようになっています。
今のお子さんは、泥遊びの経験が少ないんですね。ですから土をいじらせると、思った以上に楽しんでくれます。無農薬ですからもちろん虫もいっぱい出てくるのですが、それも含めてよい経験だと思っています。高校1年生の最後に大根を育てます。いくつか種をまいて、芽が出たところで間引きして、自分が選んだものを一本だけ育てます。もちろん虫を除去しなければなりませんし、水をやって追肥をして。丁寧に育てた子は、本当に立派な大根になります。そうやって、丹精を込めるというのはどういうことなのか、実感として味わって欲しいんです。

―なるほど、そういう実体験を通じて食事のときに自然に感謝の念も湧くと。

はい。また食の安全とか、自分たちの暮らしがどう成り立っているか、ということにも目が向きます。それから無農薬ということを実践すると本当に大変なのですけれども、普段教室で学んでいる「環境」に対する意識が高まります。園芸を通じて農学部やバイオ関係に進む希望を持つ生徒も多いんですよ。
作物一つが万の言葉より重いと思います。

学校近くの「万葉の小径」と呼ばれる烏山川緑道。世田谷の地でありながら校舎の周りは緑豊かな環境。

―心のケアについて教えてください。

スクールカウンセラーがおりますので、週に四日、カウンセリングルームが開きます。そして、我々が相談ができる精神科の先生もいらっしゃるので、一ヶ月に一度、チームを組んでいろいろな問題の事例について勉強をします。
ただ、そういったノウハウ以前の問題として、もっと中学に入学した根本の時点で、生徒一人ひとりが自分の居場所を作れるように大変気を使っています。心の問題というのは、そこに存在できない、学校で自分が安心して居られる気持ちがもてないとどうしても起こりえます。
入学した直後、女子だから小さいグループが出来ますね。そしてその中でけんかをしたり仲間はずれにしたりなったり、そういうことが起こりがちです。そこで本校では、そうならないような小さな工夫を積み重ねています。具体的には席替えを3日ごとにします。意図的にクラスをどんどんかき混ぜるんです。昼食のときも、最初は毎日、少したったら3日一度、コンピュータでぐるぐる混ぜながら「今日はこのグループで食べましょう」ということをしてあげる。これは過保護のようですけれども、お弁当を食べるときというのは親密度を深める格好の機会です。それをクラス全体でシフトしていくことによって、クラスのまとまりといいますか、閉鎖的な小グループではなく、クラス全体が仲間だという意識が育っていきます。中学1年生の前半はそれに徹します。そのあと、今度は少しずつ集団を広げて行きます。クラス替えは毎年しますし、クラス全体の仲間意識が今度は学年全体に広がるようにと。そうすると、必ずどこかに自分を受け入れてくれる場所があるという安心感が生まれます。それだけでずいぶんいろいろな問題がクリアできるんですよ。さらに、勉強をするにあたってもみなで励ましあいながら伸びていけるので、自分ひとりで頑張るよりも何倍も伸びます。そしてみなの中で認められたという自信もつきます。

体育館。勉強だけではなく、心と身体のバランスの取れた発達を目標とするのが本校の大きな特徴の一つ。50年以上の歴史のあるリトミックを全学年で実施している。

―リトミックを積極的に取り入れていますね。

中1から高3まで、体育の授業の中の1時間は必ずリトミックと創作ダンスを行っています。戦前、ヨーロッパのリトミックを初めて日本に紹介した天野蝶先生という方が、戦後本校の教員となり、リトミックを根付かせました。ですからもう60年近い伝統があります。リトミックというのは、三拍子、四拍子などの拍子を基本として、三拍子ならこの動き、四拍子ならこの動きという各部位の動きが定義されていまして、太鼓を叩いてその合図でそれを瞬時に切り替えるんですね。今三拍子だけれど、その次の瞬間に四拍子とか。上級生になると、さらに難度が上がりまして、手は四拍子で足は六拍子とか、部位ごとにばらばらになります。私も一度やってみたのですけれど、これは、ものすごく集中力を必要とします。50分間、人間はこんなにも集中できるものか、と改めて思います。ですから、集中力をつけることの訓練になりますし、自分の体を自由に動かすというスキルが身につきます。これは表現力の手段としても大いに役立っていきます。何か自分のメッセージを伝えるうえで、身体で自由に表現できるということはとても大切なのです。これも前に述べた「精神性と身体性の両立」の実践です。また、思春期というのは、自分で自分の気持ちが抑えられない、不安定な時期です。そういう精神的に自分の心が自由にならないとき、身体を自由にできるということはとても大切だと思います。


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